「コミュニケーションが取れている」では意味がない、心理的安全性の罠
2024.10.08
今回のインサイトは「エンゲージメントと心理的安全性の関係」がテーマ。
生産性向上に伴奏するCXかえる事業部の専門家が、企業の管理部門が抱える悩みのひとつである組織の生産性を高める方法について、「人材・組織・環境」の面から成功のポイントをお伝えしていきます。
目次
専門家 プロフィール
株式会社ライフワークスタイルラボ
CXかえる事業部
ソリューション開発・企画グループ
シニアマネージャー 飯島宗裕
ベンチャー企業の人事責任者、人事コンサルタント、研修講師など人材開発や人材育成に携わって20年以上。
教育制度や評価制度の構築及び「働きがい」「働きやすさ」を生み出す研修や組織開発を得意としている一方、日本酒コンサルタントとしても活動。
「人づくり、酒づくりの専門家」として活躍中。
中小企業診断士、利酒師。
エンゲージメントと心理的安全性の関係
近年になってエンゲージメントや心理的安全性という言葉を聞く機会が増えています。
エンゲージメントとは、「従業員の会社に対する愛着心をあらわすもの」であり、
エンゲージメントが高い=個人と組織が一体となって双方の成長に貢献しあう関係が築かれていることを指し、生産性の向上やイノベーションを起こす後押しにつながります。
一方、心理的安全性とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことで、例えば新人が意見を述べても周囲が「新人の意見だから・・・」と否定せずに一つの意見として尊重され、自由闊達な意見が交わされます。
そして、このエンゲージメントと心理的安全性は密接な関係にあります。
「チームの心理的安全性」という言葉を生み出したハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授は「ワークエンゲージメントのスコアが高い組織は心理的安全性が高いという相関関係がある」と言っています。
心理的安全性がなぜ注目されているのか
心理的安全性が注目されたのは、Google社が「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」との研究結果を発表したからです。
「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」のほうが重要であると結論づけ、最も重要な因子は「心理的安全性」だったと示しました。
そして、近年になってさらに注目されているのには3つの理由が考えられます。
1つめは、VUCA(予測不可能な時代)になって今までのような「経験による成功の法則」が通用しなくなったからです。経験によって生まれる固定観念を取り払い、イノベーションを生みだすためには年齢や役割を超えた様々な視点が必要となるため、心理的安全性が注目されています。
2つめは、コロナ禍においてテレワークが普及し、コミュニケーションのあり方が大きく変化したからです。対面の会議に比べ、オンライン会議は個々人にスポットが当たりますから、余計に自分の意見を言い出しにくい環境にあります。そこに心理的安全性が無ければ、発言に対する高い壁ができ、会議そのものが成立しなくなってしまうかもしれません。
3つめは、若手のモチベーションを高めるために有効だからです。人は「そのチームに必要とされている」ことでモチベーションを高めることができます(承認の欲求)。若手社員の意見を受け止めるということは、チームの一員の発言として尊重する・認めるということであり、若手のやる気を生み出し、離職率を下げる効果も期待できます。
心理的安全性の罠
一方、心理的安全性の取り組みで、誤った考え方により全く効果がないケースも見られます。
よく見られる事象(罠)をいくつか紹介します。
1)ただ優しく接すれば良い、という罠
前述したエドモンドソン教授は「職場の心理的安全性を高めることは、優しく接することではない」と述べています。優しさが相手を気遣い、それがかえって「相手に悪いから本音を言わないでおこう」という思考につながり、心理的安全性がかえって無くなることがあります。率直な意見は衝突を生み出すものであり、それを避けてはいけません。
2)懇親会をすれば良い、という罠
コミュニケーションを深めるために「懇親会を行う」という会社は多く見られます。それが意味のないこととは言いませんが、大きな効果は期待できません。心理的安全性に必要な関係性は「仲が良い」「なれ合い」というものではなく、「お互いを尊重(リスペクト)しあう」というものです。共通の目標を達成しあう仲間として、お互いが自分の役割や知識・スキル・経験などを活かし、本気になって話し合うためのコミュニケーションが求められます。そのため、ただ懇親会を行うのではなく、お互いにリスペクトしあえるような関係構築の工夫が必要になります。
3)研修をやれば成果が出る、という罠
心理的安全性を高めたいという理由から、コミュニケーションやチームビルディング、ファシリテーションといった研修をやりたいという相談が増えています。ただ、研修講師の私が言うのは何ですが、あまりおススメしていません。(なので、営業からは怒られます(笑))
その理由はいろいろあるのですが、一番の理由は階層別の研修でやろうとするからです。「管理職向け」「若手社員向け」のように多くの会社が階層別で研修を行います。テーマによっては階層別で問題ないのですが、心理的安全性は「部署(チーム)」の課題です。それぞれ違う部署(チーム)ということは、構成も組織のサイズ感も課題もバラバラです。なので、有効な研修ができません。部内会議や課内会議にファシリテーターとして入り、心理的安全性の高い場を作る方が階層別で研修をするよりも、よっぽど効果的です。
心理的安全性を高めるためにやるべきこと
私は今までの経験から、心理的安全性を高めるためには次の5つのポイントを押さえることを推奨しています。
1)リスペクトしあえるコミュニケーションをとる(単なる懇親会ではダメ)
2)雑談を大事に(まずは会話から始めよう)
3)ポジティブな意見をいう(ネガティブな意見は何も生み出しません)
4)相手の話を聴く(会議では原則PC持ち込みNGにすべき!)
5)相手の意見に反応する(拍手、うなずく、それいいね!など)
最後に
これは心理的安全性に関係なく、組織として機能するための2つのポイントをお伝えします。
(当然ながら、この2つができていないと心理的安全性は生まれません)
・お互いに挨拶しあうこと
・お互いに感謝しあうこと
まずはこの2つから始めてみませんか?
【無料ウェビナーのご案内】
社員の力を引き出す!エンゲージメント向上術
~心理的安全性の落とし穴と本当のチーム力~
近年、エンゲージメントや心理的安全性という言葉をよく耳にするようになりました。実はこれらの考え方は最近出たものではなく、日本においては昔から大切にされていた考え方です(言葉は違いますが)。
では、なぜその考え方が今になって広まっているのでしょうか。理由はいくつかありますが、企業を取り巻く環境が大きく変化し、これらが重要視されているからです。
とくに、コミュニケーションの強化が取り上げられ、多くの企業が懇親会を開いたり、1on1ミーティングを実施したりしています。しかし、これらを行えばエンゲージメントや心理的安全性が向上するのかと言えば、そうではありません。
逆に、「これだけやっているから、自社はエンゲージメント対策を行っている」と錯覚し、十分な効果が出ていないまま放置している企業が多いのが現状です。
今回のウェビナーでは、エンゲージメントや心理的安全性が必要になっている背景と誤った取り組み方や具体的にどう取り組めばよいのかを解説します。
対象 : 人事・人材育成のご担当者様、テーマに興味のある方
■特にこのような方におすすめです
・離職率が高い、イノベーションが起きないなど組織の悩みをお持ちの人事部門の方
・従業員同士の仲は悪くないのに、会議などで本音の話し合いができていないと感じている管理職の方
・会社で実施したエンゲージメントサーベイの結果が悪く、どのような取り組みをすればよいのかお悩みの方
【おまけ】利酒師 飯島の今日の一杯
私は日本酒のコンサルタントもしています。
日本酒の醸造工程を行う職人の統率者を杜氏(とじ)と言います。
最近は日本酒造りもオートメーション(機械による自動化)が進み、杜氏がいない蔵元も現れてきました。それでも、多くの蔵元にはまだ杜氏が活躍しています。
杜氏は、酒造りの技術はもちろん、そこで働く職人の統率という役割を担います。
もともと酒造りは農業・漁業関係者が作業のできない冬の期間に集団(杜氏集団と言います)で出稼ぎをしていたので、長期間家族から離れて働く職人の心のケアも杜氏の大きな役割でした。
そのため、食事の時のコミュニケーションを大事にし、職人との会話を大切にする姿勢が求められていたのです。現に、私も酒造りをしていましたが、どの杜氏も柔和で(仕事上は厳しいですが)たくさんの会話をしました。(職人の方々がお互いにリスペクトしあっていることも感じました)
とくに山梨県の笹一(笹一酒造)、徳島県の鳴門鯛(本家松浦酒造)の杜氏は強く印象に残っています。美味しいお酒を造る情熱を持ち、職人たちが働きやすいように環境を創る。
ぜひ、その成果としての日本酒をお楽しみください!
みなさん、今日もお疲れ様でした。
美味しい一杯で、乾杯しましょう。